コロナ蔓延時の日本の医療体制

今回のコロナ禍で日本の医療体制の問題が指摘されています。地域医療構想は2025年の医療需要を予測して、現状と将来のギャップから無駄な病床削減や在宅医療の拡大などを目指す政策でしたが、ここにきて感染症を想定していなかったため見直されようとしています。コロナ・コロナで入院する病床がないのに病床数を減らすとは何事か!どういうことかということです。日本はイギリスのように公的病院が多くないので、税金投入されやすい日本の公的病院が今後もまず率先して感染症指定病院として病床維持したバッファー的なものとなるのは仕方が無いです。

Corona Virusに思う

しかし、そのためには有事に他の科を全て後回し、言い方が悪ければ犠牲にする必要性も出てきます。独立行政法人化したとはいえ大学病院も同じだろうと思いますが。しかし、大学病院や一部公的病院は高度医療も担っている。そのためには有事は病院に役割分担をするという発想が出てきて当然です。新型コロナウイルス感染症関連の医療機関向け補助制度も制度としては良いものだと思いますが、多分この補助金額では積極的に受け入れる病院は少ないのではないでしょうか。クラスターが起きれば全て吹っ飛ぶ勢いです。

コロナ感染がたとえ蔓延していても、他の通常の病気の患者さんもいます。緊急、準緊急なものとしては脳血管障害、心臓疾患、がんなどです。そういう患者さんを後回しに治療することも倫理的には正しいとはいえません。ICUや手術室の人工呼吸器をそれらの人からコロナ重症患者に使用するためというのは、緊急性を考えれば正しいことなのかもしれませんが。だから、やはり有事での病院役割分担でいわゆる有事コロナ専門病院を作るのが望ましいのではないでしょうか。全ての病院で少しずつという発想も悪いことではないですが、感染症に慣れてないスタッフがクラスターを引き起こす懸念があります。そのかわり、政府や自治体が有事コロナ専門病院には収入が減少した分は手厚い補助を行うということは前提ではあるのでしょうが。もちろん、さらなる拡大では全ての病院が同じ機能を果たさねばならないことにはなります。  コロナワクチンが世界中で開始されています。今後の焦点は変異ウィルスでしょう。死亡率が高いとされる英国型は約70カ国・地域に、ワクチンが効きにくいとされる南ア型は約30カ国・地域に、再感染の恐れが強いとされるブラジル型は8カ国・地域に拡がり、確認されています。

ドイツでの手術2



しかし、ドイツでの手術が日本に比べて全てにおいて優れているかといえば、そうではないと思います。自分は外国かぶれではないので、そこは冷静に判断できます。ドイツでの病院、少なくとも大学病院はそれぞれの科がいうなれば独立した会社みたいなものです。教授が社長です。教授が医局員の給料を支払います。そして医局員も基本給は凄く安く、仕事した内容によって加算されていくというシステムです。第一助手1回いくらみたいな感じです。また、収支が厳格化されているので不要な検査は基本的に行いません。保険でカバーされるものだけです(ここは最近の日本も似ているが)。だから、CTやPETや採血や何もかも頻回には絶対に行いません。損するからです。安易に手術でもステプラーを使いません。ほぼ全て糸での手縫いです。糸(当時モノフィラメントは1本3000円。今はもっと高額)も何本も使うと大変高額になるので、1本の糸での気管支形成は連続縫合なのも頷けます。1本の連続縫合をスキルの無い医師が行うと気管支のカッティング(裂けること)からせっかくここまで縫ったのに全て台無しということにもなります。極力材料費を抑える意識が各医師は高いです。あたりまえです。そうしないと給料でなくなりますから。日本は民間病院ならそういう意識が比較的あるでしょうが、公的病院では材料費に関する意識はほぼありません。それは悪いことではなく、患者さんのために、自分のためにお金を気にせず好きなものが好きなだけ使えることが可能なのは良いことです。多く使うとレセプトで詳細記載が必要になりますが、あまり非常識な使い方でなければ、経験上はレセプトで撥ねられることは稀です。日本でも使用できるステプラーの本数が決まっていますが、上限以上使うこともやはり場合によってはあります。しかし、ドイツではそういう場合は手縫いします。日本は本当に恵まれているなと思います。ただ、懸念もあって日本の若い呼吸器外科医はシンプルな気管支や血管の縫合閉鎖も経験の無い人が多いです。便利なステプラーをもちろん使えば良いのですが、使えないときやトラブル時にはマニュアル手法を知らないとリカバリーできません。

ドイツでの手術1




ドイツでの生活は朝早くからの回診に始まって、手術手術手術も連続でした。なぜここまで手術するのか??ドイツでは手術した患者は別室で麻酔医が覚醒します。覚醒部屋があり、何人もの術後の患者さんが寝ています。で、手術が終わって空いた手術室にはすぐに次の手術患者さんが運び込まれます。だから、術者の休み時間は本当に短いです。日本では手術が終わった患者さんは手術をした部屋で麻酔医のもと覚醒します。それまで手術室は空きません。患者さんによっては覚醒が遅い人もいます。呼吸がなかなか強くならずに気管内挿管チューブがなかなか抜けない人もいます。覚醒後はその後ICU(集中治療室)なりRR(回復室)なりに麻酔医とともに連れて行かれます。当然、その間は手術室は空っぽです。そして麻酔医も外科医も休んで次の患者の手術室への入室時間を決めます。どうですか。。。この違い。縦で手術して麻酔主治医が一人づつと決まっているからでしょうか。ドイツでは手術室が空になる時間が極めて短いといえます。日本みたいにお昼だから1時間ランチタイム!みたいなことはしません。ランチタイムを各医師ずらします。なぜ?そこまでやる??それはまず第一に患者が多く1日の手術数を増やす必要性があること、そして手術を増やして利益を上げる目的を共有していること。(ドイツは手術すればするほど収入が増える。してもしなくても同じ日本とは根本的に異なる。)第3に効率よく仕事をすることで勤務時間を短縮させることが出来るからです。ほとんどの病院がそこまでする必要が無い数の手術なので、あまり問題にはなりませんが。ただ、働き方改革で帰宅時間を早くというのであれば、そういう改革は必要になってきます。しかし、基本、いくら効率良く仕事をしてもインセンティブがつかないのであれば、手術リスクだけ上がるので、麻酔医も外科医もmotivationはあまり上がらないでしょう。

ドイツへの憧憬2

ドイツでは最初にドイツ語を学ぶためGoethe-Institut に通いました。最初のぺーパー試験の結果でMittel クラスに入れられました。あたりまえですがドイツ語ですべて授業するのでわけわかりませんでした。先生なんだから英語も喋ってよと言う感じですが、ドイツ語しか喋りません。日本人は他に二人いて、一人は今も友人である仙台のTV関係の男性、一人はフライブルク音楽大学に通う女性の学生さんでした。男性(佐藤くん)の方は2回目のゲーテらしく、フライブルクをよく知っていました。美味しいレストランやバーなど紹介してもらいました。オスカーは美味しかったなあ。一緒にビール(ヴァイツェン)はよく飲みました。女性の方はバイオリンをしていて顎にバイオリンを当てる痕があって、そういうもんなんだなあと。大変だなあと。私は家族連れだったので駅(HBF)近くの旧市街側のアパートを借りて住んでいたのですが、彼は独身だったのでゲーテの寮みたいなところに住んでいました。遊びに行くと人種のるつぼで、こちらの方がドイツ語上達早いのではないかと思いました。佐藤君のつてで今も友人の柴田君など多くの知り合いが出来ましたが、みんな大分私より年下です。先日金沢に遊びに来てくれました。歳も仕事は全く異なるんですが、ドイツ語語学学校で同級生っていうのが過去の記憶を呼び起こしてくれて話してて面白いですね。

ドイツへの憧憬1

進行肺癌の勉強がしたくてドイツに2002年から留学しました。ドイツの南西部のフライブルク(Freiburg in Breisgau)というところです。バーデン=ヴュルテンベルク(Baden-Württemberg)州の郡独立市で、人口23万人(うち外国人が14%)の学園環境都市です。このブログのトップページがその町並みです。フライブルクはドイツながら温暖な気候から最も住みやすく、富裕層がリタイヤして移り住む町として知られています。でも冬は積もらない程度に雪は降りました。私の留学先のフライブルク大学は正式にはアルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルク(Albert-Ludwigs-Universität Freiburg)と言います。ドイツで5番目に古い大学であり、1457年、オーストリア大公アルブレヒト6世によって創立された名門大学らしいです。創立時には医学法学哲学神学の4学部があったけど、今は11の学部があり、学生数約2万5千人の総合大学でです。有名どころでは哲学者Martin Heideggerが教鞭を執ってました。ノーベル賞受賞者も二桁です。私の留学したKlinik für Thoraxchirurgie | Universitätsklinikum FreiburgはRobert-Koch-Klinikと言ってJ. Hasse教授が主催しており、Oberarzt(OA:上級医.病院での主任医師もしくは、特別部門を指導する医師、数人いる)はDr.E.Stoelbenでした。今の教授はDr.B.Passlickですが私は面識がありません。E.Stoelbenは今はKliniken Köln、Lungenklinikのチーフです。今でもメールのやりとりがあります。彼の血管形成や気管支形成は本当に卓越していて、縫合も早く、私の進行癌の手技はほとんどこの大学で学んだと言っても過言ではありません。当時は本当に日常茶飯事に進行癌の手術をしていて気管支形成や血管形成は本当に多かったですね。なんの迷いもなく気管支を切る、何の迷いもなく主肺動脈を最初に剥離してテーピングする手技、それすら若い私は度肝を抜かれました。今ですらもう一度ドイツで学びたい、手術したい気持ちがあります。

手術の診療報酬2

手術の診療報酬として1回の手術がふつ~うの肺癌に対する胸腔鏡手術では92000点でした。つまり1回ふつ~の胸腔鏡下肺葉切除を施行すると92万円の手術報酬なわけです。ちなみに麻酔の診療報酬は当たり前ですが別です。この手術を、では年間200やって、約半分の点数、50点の手術を150やれば、一体いくらなのかというと2億5千900万円です。3人外科医がいると単純に8630万円です。入院や点滴などの他一切の費用を無視して手術だけに特化するとこんなもんです。でも手術は外科医だけでやっているわけではないので、こんな年収あり得ないわけですが。大体肺癌の手術をするには1回の入院で240万円くらいかかりますので、手術の費用は全体の費用の大体4割程度です。そう考えると外科医の給料は高くないですね。住民税と所得税払ったら、手取りはさらに半分に。。泣  

ちなみに手術を受ける患者さんはそんな費用を払う必要がありません。「高額療養費制度」によって年収に応じて支払う上限が決まっています。

70歳以上の方の上限額(平成30年8月診療分から)

厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆様へ(平成30年8月診療分から)

自己負担限度額70歳以上の方の上限額

厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆様へ(平成29年8月から平成30年7月診療分まで)

 

手術の診療報酬

前回は診療報酬の話をしましたが、それでは手術はどうでしょうか?

手術も細かく点数がついています。開胸手術は胸腔鏡手術より点数が低いです。また、気管支分岐部切除や再建手術、移植などは高い点数になっています。肺の手術では今はステプラー(stapler)というという自動縫合器というデバイスを用います。ステプラーとはホッチキスのことですが、細かな多数のホッチキスが臓器にかかり、内蔵しているカッターナイフで切るという装置です。これで肺組織や気管支や血管を処理します。なくてはならない機器なわけですが、これがなんと手術の種類によって保険で支払われる本数が決まっています。それ以上使用するとまたまた病院の持ち出しというか診療報酬から減額されます。規定数が6本なら7本以上使うと損していきます。だから診療報酬を少なくとも重要視してる医師は6本以内で何とかしようとします。しかし、どうしても使わねばならないときも出てきます。そこは仕方が無いのですが。また、超音波凝固切開装置やベッセルシーリングシステム(vessel sealing system)といった、これまた無くてはならない機器がありますが、これも加算は2000点です。機器の値段より安く設定されていますので、使えば使うほど一定の報酬減額になります。これら機器を使わずに胸腔鏡手術は可能ですが、術後術中合併症は上昇することが予想されます。多分、使わない外科医は極めて少数でしょう。 ここまでぎりぎりだとは何かおかしい感じがしませんか?

 

 

診療報酬について



病院の外来や入院では医師や看護師など医療従事者ははさまざまなことをします。その一つ一つの行為に点数がついています。例えば採血したり、点滴したり、内視鏡検査したり、手術したりです。診察だけでも初診料とか再診料があります。その点数X10が診療報酬(円)になります。例えば100点のことをすれば1000円ですね。 診療報酬とは、医療保険から医療機関に支払われる治療費のことです。これはいろんな制限がつけられていて、項目によっては月に何度も採血ができないとか、CTは1月1回だけだとかリハビリは月何分までとかなどです。過剰な点数で医療費が上がらないようにすることで医療費を抑制し保険財政が破綻するのを予防しているわけです。しかし、少子高齢化で医療費は自然に伸びていきます。医療が高度化すれば高度化するほど医療費は上がります。診療報酬点数を下げると様々なサービスが無くなります。食事の値段を下げたり、平均在院日数を短縮したり(一定期間以上の入院で診療報酬が下がるため)さまざまなことで医療費を下げることがされています。病院の診療報酬が下がる対策としては有料個室や特別室を作って報酬にすることです。この診療報酬の厳格化は最近、本当に厳格化されている雰囲気があります。無駄な医療=報酬の減額なのですが、昔は大学病院や公的病院などではいい加減な感じがありました(税金で補填されるから)が、今はそうではありません。例えば気管狭窄や気管支狭窄に用いるステントなどは硬性鏡を用いるシリコン製のDumonステント以外は赤字です。しかしこれは留置にテクニックが必要です。硬性鏡自体、実際には使ったことのない医師も多いと思います。Ultraflexなどの軟性気管支鏡で入れるステントは手技的には簡単ですが、材料費が手技料より高いので入れれば入れるほど赤字です。こうなると赤字を生み出すために働いていることになります。こういう材料費が手技の範囲を狭めているともいえます。赤字になると医師はただ働きどころか、マイナス報酬を生み出すことになり、病院の持ち出しとなります。患者には有用でも病院はどんどんと赤字になっていく構図です。だから、ギリギリの診療で行っている日本の病院は今回のコロナパンデミックで通常の患者数が減ると赤字にすぐに転落します。

 

歯の疾患と呼吸器疾患の関係性~歯科治療と予防の重要性



最近は手術前に歯療科口腔外科や歯科の診察をうけるのがルーチンになってきました。歯の疾患、主に虫歯などは術後大変な合併症を起こす可能性があります。我々が最も恐れている疾患は降下性縦郭炎(descending necrotizing mediastinitis:DNM)というものです。

DNMの原因疾患として,歯原性膿瘍,咽後膿瘍や扁桃周囲膿瘍など口腔や頸部などの感染があげられます。口腔内の細菌が筋膜と筋膜の間に沿って縦隔、いわゆる肺と肺の間で心臓の前のスペースである前縦郭や食道周囲の後縦郭へ下降すると,だんだんと壊死性膿瘍を形成し,さらに細菌の増加で敗血症を引き起こします。細菌が口から下の縦郭に降りてくる経路には,気管の前からの経路,血管に沿う経路,食道に沿う経路があります。リスク因子としては糖尿病,肝硬変,重喫煙,ステロイドや免疫抑制薬の投与中などがありますが,特に既往歴や基礎疾患のない患者でもみられます。私が経験した患者さんは糖尿病もなく基礎疾患も無い肺癌の術後状態でした。親知らず周囲の腫れから縦隔炎を生じました。免疫の低下で虫歯による口腔内細菌が縦郭炎を引き起こすという恐ろしいものでした。治療は細菌が形成している膿を外に出すドレナージが基本ですが、10~20%の死亡率があります。定期的な口腔内の観察、洗浄などのメンテナンス予防が極めて大切です。特に免疫系の低下している高齢者では注意が必要です。
昔は膿瘍の位置によりドレナージのアプローチが様々(胸骨上、剣状突起下、肋間など)でしたが、現在では胸腔鏡手術によって,小さな創で広範囲のドレナージ(前縦隔、後縦隔)が可能です。治療では呼吸器外科だけでなく,歯科や耳鼻咽喉科など多くの診療科との連携が必要です。


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鳥インフルエンザと新型コロナウィルス



昨日富山県の小矢部市養鶏場で高病原性のH5N8タイプの鳥A型インフルエンザウィルスが確認され、14万以上の殺処分が行われ始めました。国内では鶏肉や鶏卵から人に感染した事例はないとのことですが、当然、ウイルスは病鳥の体液や内臓、糞便との接触によりヒトへ感染します。ヒトからヒトへの感染はコロナのように患者との濃厚接触による限定的なものです。H5N8ウイルスは2019年冬にヨーロッパで流行したH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスが、2020年の夏にソ連に渡り秋に渡り鳥と共に大陸を渡って日本に侵入したと考えられています。日本では昨年11月に香川で発見されました。コロナの場合は主にヒトにより日本に入ってきました。(航空便の荷物への付着とかも考えられます)H5N8ウイルスはヨーロッパ型とは遺伝子は完全に一致していないようですがかなりの相同性があると言うことです。ちなみにHとNはウイルス表面に存在する2つの糖タンパク質の種類に基づくウイルスの分類型のことです。HA(赤血球凝集素タンパク)には、H1からH18、NA(ノイラミニダーゼ)にはN1からN11までの亜型が存在します。この亜型によって感染性や重篤性が変わります。亜型と書きましたがウィルスは常に変化しています。インフルエンザワクチンを折角打ったのにあまり効かないなんて当たり前の事ですね。ターゲットのウィルスで無いことの方が多いんですから。新型コロナウイルスは1ヶ月に2回くらいのペースで変異することが判っています。イギリスで今猛威を振るっている亜型ウィルス(VUI 202012/01)は初期の中国型に比べ29箇所もの変異が確認され変異スピードはかなり速いということです。また、感染性も70%くらい増強しています。日本に入ってきたら現状では済まされません。じゃあ、なぜこのウィルスはいつどのように変異するのかということですが、一説によると、免疫力の低い患者が新型コロナに感染し、長期間持続感染することで、免疫から逃れるために変異したウイルスが生き残り、亜型が生まれる可能性があるということです。じゃあ、過度な長期治療はやめるべきなのかという医療の原点を転覆させるような考えも出てきています。日本での問題はイギリスのようにウイルスの遺伝子配列の解析を強化できるのかということでしょう。