手術で一番大切なこととは



肺癌手術にかかわらず癌の手術で一番大切なこととは一体何でしょうか❓

手術を受ける側の望むこと。それはまず癌をきっちり取ってくれて、いうなれば癌を根治させてくれるかどうか。そして同時に安全に手術してくれるかどうか。次に創の大きさや術後の疼痛など合併症を少なくなどでしょう。

医者側と患者側で、それがややずれていることなどがあります。現在では内視鏡手術はどの臓器の手術にも応用されて普通で安全のものになりましたが、胸腔鏡手術も出始めの頃は手術術式に関していろんな意見がありました。

まず危ない。ちゃんと肉眼で見なさい。リンパ節郭清が十分できない。創の大きさなど問題ではない。手で癌を触ってこそ局在がわかる。など様々な意見がありました。これら意見は決してまるっきり間違いとはいえません。しかし、今は呼吸器外科領域だけでなく、消化器外科も産婦人科も脳外科も心臓外科もありとあらゆる科で内視鏡手術が普通に行われています。なぜこんなに日本のみならず世界中で普及したのか?これは私は患者側のためというよりは医師側の利点、つまり術者が楽だからではないかと考えています。大きなモニターに映し出される臓器、血管は肉眼で拡大鏡をつけるよりもはるかに精密で見やすいです。しかも術者は首を曲げないでいいので本当に楽です。小さな創から首を曲げて覗き込む手術は本当に肩こりがひどくなります。たまに行う開胸手術の時でさえそうなりますので。また視野の統一性があります。術者だけでなく第一助手、第二助手、機械出しナース、手術に入っていない学生や外回りのナースまでもが全員同じ視野を見ているわけです。術者が何かおかしなことしてたら第二助手ですら、すぐに指摘できます。昔は第二助手以下は全くと言っていいほど術野が見えませんでした。。。悲しい現実でした。

ドクターY~外科医・加地秀樹  (ドクターXではない)

などは腹腔鏡の魔術師と呼ばれていますが、魔術師でない医者は必ずしも腹腔鏡手術の方が開腹手術よりも優れてるとは言えないわけです。つまり、技術が優れている人では内視鏡手術は開胸手術よりも手術を受ける側の望むことが大きく叶えられるけど、そうでない人では叶えられないということになります。

これは、かなりsevereな問題ですが、手術で新しい技術が出てきた時、その技術をすぐに自分で行って満足できる医師は少ないです。当たり前ですが learning curveは医師により異なるので、早くうまくなる人とそうでない人がいる。満足にできそうにない間は、患者さんには迷惑が掛からないように簡単に出来そうな腫瘍やリンパ節郭清をしなくてもいいようなものに限定するわけです。手術をするとき誰がするのか、その人はどのくらい経験があるのかはきっちり聞いておく必要があるでしょう。

 

心疾患リスク検査キット

My Labo新規獲得キャンペーン

daVinci(ダヴィンチ)手術

ドラマでよく出てくるロボット支援下手術、いわゆるダヴィンチ手術ですが、この手術も呼吸器外科で行えます。ロボットが手術をしてくれるなら楽なのですが、手術するのはあくまでも医師であり、ロボットを利用して医師が手術します。いわゆるロボットに支援してもらって行う支援下手術です。この機器はアメリカで「軍医の分身」として開発されたものです。戦時下の野戦病院はベッドも医療機器も外科医も何もかも足りない。照明も麻酔も消毒も不十分な環境下で、戦場で重傷を負った兵士の命を遠隔手術によって助けることができないかというのが開発目的でした。しかし手術操作と機械とのわずかなタイムラグがあり、軍事医療から民間に転用されました。2000年にFDA(アメリカ食品医薬品局)から承認を受け、日本では2009年に厚生労働省から医療機器として承認されています。日本のダヴィンチの台数は米国に次いで多いらしいです。この機械は前立腺手術のような深く狭くそして範囲が限定された手術にはすごい威力を発揮します。細かな操作が可能で出血が少ないわけです。しかし、現段階の肺癌手術では胸腔鏡手術に比べて何が利点なのかはまだ不明です。孔の数が多い、コストが高い、出血時の危険性が高い、手術前後時間がかかるなど胸腔鏡手術にはない欠点があります。私が思う最もきつい欠点は触覚がないことです。視覚だけで縫合しなければなりません。逆に長所は手振れがない、鉗子の自由度が高い、3D視野が広いことでしょうか。つまり、奥深いリンパ節の郭清や腫瘍切除などに有利です。年を取った外科医にはこの上ない手術環境が得られます。ちょっと手が震えるけどダヴィンチならできる!と言って若手に手術機会を奪うようなことだけはしてはならないと思いますが、結果的には奪ってるんでしょうね。。。外科医は皆年取りますので。。。ただ、ダヴィンチ手術は胸腔鏡手術に比べてお金がかかります。特に手術数が少ない場合は。なのに日本では保険点数は全く同じです。保険がきくので患者側からすれば良いのですが、コストの点からは民間の病院はダヴィンチより胸腔鏡手術してくれと思っているのは当然です。大学病院ですら利潤を追求しないといけない時代ですから。ダヴィンチは私がドイツ留学していた2002年頃、イタリアでかなり流行っていましたが、ドイツでは全くしていませんでした。今でも限定された一部の病院だけのようです。(中国でもそうです。)しかし、その後イタリアでもコストの問題で下火になりました。同じ欧州なのにドイツとイタリアの国民性がよく表れています。

心疾患リスク検査キット

胸腔鏡手術について

胸腔鏡手術とは胸部外科の内視鏡手術のことです。よく患者さんからは腹腔鏡手術でできますか?という質問が来ます。胸部は胸腔鏡、腹部は腹腔鏡ですね。私は今まで3か所に孔を胸部に開け手術をしてきました。1か所は3㎝、他は1.5~2㎝位です。ただ、この創だと取り出す肺(特に下葉ですが)が大きい場合、創を大きくしなければいけません。この手術の特徴は肋間を開排しないことと、モニターを見て手術することです。この手術にも欠点はあります。肺を取り出すとき肋間を開排すると、肋間神経が障害されて術後胸部の疼痛の原因になります。いわゆる肋間神経障害による痛みが続きます。この痛みは肋間に沿って起こりますので、孔から前方にお腹の真ん中まで痛みがあります。胃の痛みだと思って胃カメラしても異常なかったという人もいました。しかし痛みは開胸手術に比べて微々たるものです。次に術者がこの手術に慣れていないとストレスが大きいです。私も15年位前に行っていましたが、小さな創からモニターを見ないで肉眼で行う手術は死角ができて極めて危なく術者もストレスがかかります。同じ内容の手術なのに術者にストレスがかかる手術は廃れていきます。最近、この創を3つから1つにして肺葉切除を行う術者が増えてきました。いわゆるUniport、Single Port手術です。 私もその一人ですが、3カ所の創よりも1か所の創の方が理論上肋間神経障害が軽減されるのは理論的にはよくわかります。美容的にも申し分ありません。しかし、どうでしょうか。この手術。。肺葉切除だけならあまり術者はストレスはかかりませんが、リンパ節郭清に関してはまだ、改善の余地ありですね。また4㎝の1つの創からいろんな道具を入れて行う手術は意外にも疼痛が増加するかもしれません。ただ、こういうことは技術の向上と術者の慣れで解決されていくと思われます。開胸手術から胸腔鏡手術への移行の時もそうでした。これからの評価次第ではありますが、少なくとも、全ての患者に適応するのではなく技術オプションとして持っておくのは悪いことではないと思います。最も大切なのは安全、合併症を避けることを念頭に置いて。。。気管支形成や血管形成に万人が応用する必要は無いと思います。ただ、私も含めて年を取ると新しい手技を導入することが億劫になってくるのは事実ですね。この手技を導入しないからといって誰からも文句は出ないとは思います。少なくとも患者さんは安全に早く手術してほしいと思っているでしょうから。そういう意味では小開胸手術に慣れている人、胸腔鏡に慣れている人、Uniportに慣れている人は同一ライン上かもしれません。

GIQ子ども能力遺伝子検査

血管形成術

血管形成する血管には肺動脈形成とか無名静脈や上大静脈形成とかありますが、血管を一部切ってつなぎ合わせる方法と人工血管を介在して縫合する方法などがあります。血管は柔らかく通常は一定した組織なので気管支形成よりは簡単です。ただ、この手技も血管外科の知識は必須です。コツをわからず縫合すると血管壁が裂けたり、狭窄したり、捻転したり、内膜が解離したりします。最も注意するのは血管内膜がちゃんと外翻しているかどうかでしょうか。通常ドイツの呼吸器外科医は血管外科の修練を行い専門医を取ったあと、呼吸器外科の専門医を取っています。血管外科はどのような外科にも必須だということでしょう。私の出身大学も私が第一外科に入局したときは大外科制であり、心臓外科、血管外科、呼吸器外科、消化器外科が同じ医局内にありました。当時は県立中央病院の小児外科もありましたのでそちらも研修医はローテートで回されました。だから研修医はその5つのグループ中で1年間で3か月ごと4つのグループを回ります。だから回らないグループも出てきます。私は血管、小児、心臓、呼吸器と回りました。大学では消化器外科は外科は回っていません。外病院では研修しましたが。1年を終えて通常は外の病院に出向するのですが、なぜか私は大学にもう半年居残りさせられました。外に出すには危なかっしいと思われたのかもしれませんね。半年間心臓外科をさらに回りました。当時心臓外科は不整脈外科+小児心臓外科と虚血性疾患外科に分かれていたので、心臓は全て回ったことになります。1年目にASDのダイレクト縫合をさせてもらいましたが、心臓の筋肉はこんなに柔らかいんだと吃驚したのを今でも当時の手の感触で覚えています縫っている感覚があまりないというか。肺動脈縫合と同じ感覚です。