これまでの高名な外科医は手術のときに重要なのは層の理解であると述べてきた。つまり血管、神経などの境界を理解し、残す臓器と残さない組織を明確にして剥離、切除しよというものである。切除する側の組織は支持組織(欧米では支持組織を指す言葉はない)・結合組織と呼ばれるものである。これはリンパ節郭清などでよく説明される伝統的な外科的重要事項とでも言うべきものだ。例えば、気管分岐部のリンパ節郭清を例にとると、臓側胸膜を剥離する、迷走神経を剥離する。気管支の縁を剥離する、気管支動脈を剥離切離する、心膜と結合組織の間を剥離する。などの操作で一塊に結合組織を切除するわけである。残った組織がつるつるぶらぶらなほど完成度が高い!という感じである。これは結合組織内にあるリンパ管やリンパ節を残さずに切離するという目的があって行われている。昔はこの操作を早期肺癌でもルーチンにされていた。局所に癌細胞を含むリンパ管やリンパ節を残しておくとそこから癌細胞が増殖して再発が起きることを防ぐためである。確かに外科医としては局所治療が手術の命題なのだからなるべく残したくはないのだが、それが本当に患者の予後をよくするのかどうか、さらにADLやPSにとって良いことなのかはいまだにわからないし、証明されていない(証明できないといった方が正解)。乳癌領域では郭清範囲が狭まっている。本邦では上葉の早期肺癌であれば気管分岐部リンパ節郭清は省略されることもあるから(選択的リンパ節郭清)昔ほどは癌の残存には臆病にはなっていない感はある。よく疑問に思うのは結合組織を全部切除して残存組織をつるつるにしていいものかということと、支持組織は物理的にそれなりの理由があって存在しているので、切除支持組織選択も考えながらしないといけないということである。リンパ節郭清の意義は物理的に癌細胞を取り除くということである。しかし郭清部分の辺縁に癌細胞があれば残すことになる。また、リンパ節転移のないリンパ節を切除するのは無駄以外の何物でもない。でも取らないとその判断、診断ができないから切除するわけである。その診断(微小なものは特に)は病理学的にしか現状無理である。つまり、リンパ節郭清がOSに与える影響はいまだに不明であるのに完成度を競い合っているという現状がある。昔東京のとある病院が普通の肺癌のリンパ節郭清で胸骨正中切開して両側の縦郭を鎖骨、頸部まで広範囲に行っていたのだが、その方法が一番予後が良いという結果にはならなかった。リンパ系での微小癌の残存がどの程度生存率に影響するのだろう。免疫チェックポイント阻害剤や分子標的剤が処方される現在、それが大きなものではないと考えてしまう私は外科医では少数派であろうか?