胸腔鏡手術について

胸腔鏡手術とは胸部外科の内視鏡手術のことです。よく患者さんからは腹腔鏡手術でできますか?という質問が来ます。胸部は胸腔鏡、腹部は腹腔鏡ですね。私は今まで3か所に孔を胸部に開け手術をしてきました。1か所は3㎝、他は1.5~2㎝位です。ただ、この創だと取り出す肺(特に下葉ですが)が大きい場合、創を大きくしなければいけません。この手術の特徴は肋間を開排しないことと、モニターを見て手術することです。この手術にも欠点はあります。肺を取り出すとき肋間を開排すると、肋間神経が障害されて術後胸部の疼痛の原因になります。いわゆる肋間神経障害による痛みが続きます。この痛みは肋間に沿って起こりますので、孔から前方にお腹の真ん中まで痛みがあります。胃の痛みだと思って胃カメラしても異常なかったという人もいました。しかし痛みは開胸手術に比べて微々たるものです。次に術者がこの手術に慣れていないとストレスが大きいです。私も15年位前に行っていましたが、小さな創からモニターを見ないで肉眼で行う手術は死角ができて極めて危なく術者もストレスがかかります。同じ内容の手術なのに術者にストレスがかかる手術は廃れていきます。最近、この創を3つから1つにして肺葉切除を行う術者が増えてきました。いわゆるUniport、Single Port手術です。 私もその一人ですが、3カ所の創よりも1か所の創の方が理論上肋間神経障害が軽減されるのは理論的にはよくわかります。美容的にも申し分ありません。しかし、どうでしょうか。この手術。。肺葉切除だけならあまり術者はストレスはかかりませんが、リンパ節郭清に関してはまだ、改善の余地ありですね。また4㎝の1つの創からいろんな道具を入れて行う手術は意外にも疼痛が増加するかもしれません。ただ、こういうことは技術の向上と術者の慣れで解決されていくと思われます。開胸手術から胸腔鏡手術への移行の時もそうでした。これからの評価次第ではありますが、少なくとも、全ての患者に適応するのではなく技術オプションとして持っておくのは悪いことではないと思います。最も大切なのは安全、合併症を避けることを念頭に置いて。。。気管支形成や血管形成に万人が応用する必要は無いと思います。ただ、私も含めて年を取ると新しい手技を導入することが億劫になってくるのは事実ですね。この手技を導入しないからといって誰からも文句は出ないとは思います。少なくとも患者さんは安全に早く手術してほしいと思っているでしょうから。そういう意味では小開胸手術に慣れている人、胸腔鏡に慣れている人、Uniportに慣れている人は同一ライン上かもしれません。

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気管支鏡検査か胸腔鏡手術か

肺癌のステージを見るためにはPET‐CT(Positron Emission Tomography。ポジトロン・エミッション・トモグラフィー)検査も行います。この検査は癌細胞がブドウ糖を取り込みやすい性質を利用した検査です。微量の放射性物質(18F-FDG)をブドウ糖にくっつけて血管内に流します。癌細胞が18F-FDGを取り込むとコンピューターの画像の上で光ります。ただし、この検査で光ったといっても必ずしも癌であると断定はできません。肺結核や肺炎など感染症や良性疾患でも18F-FDGを取り込みます。また癌細胞の密度の低い早期肺癌などでは癌であるにもかかわらず細胞数が少ないのであまり光りません。

この検査は遠隔転移やリンパ節転移の有無の診断に力を発揮します。リンパ節が腫れてなくても光ることも当然あります。よって転移が疑わしいと予想できます。なお、PETは脳、心臓、腎臓、膀胱などでの悪性腫瘍の診断には不向きです。

CTやPETでかなり肺癌の確率が高くなったわけですが、確定診断(細胞病理学的検査)はまだです。ここで通常、呼吸器内科医は喀痰細胞診とか気管支鏡検査による経気管支肺生検 (TBLB)などによって腫瘍の一部を採取して組織を確かめます。ただし、気管支鏡検査で採取が困難な場合やほぼ間違いなく肺癌だろうという場合は、その病理検査はすっ飛ばして手術をします。

この手術は、現在胸腔鏡手術という内視鏡手術が一般的です。つまり胸部に1~数カ所の穴(2-3cm)を開けて胸の中が映し出されるモニター画面を見ながらするものです。患部を切り取って、すぐに病理検査に出し肺癌と確定診断を得たら引き続き手術を継続してもう少し大きくとったり、リンパ節を郭清したりします。

*ポイント  気管支鏡検査での経気管支肺生検の成功率は病院によってまちまちです。大きな腫瘍なのになんで診断つけれないんだというような技術的に乏しい呼吸器内科医もいるので注意しましょう。特にどっちみち手術が必要なのであれは気管支鏡検査はすっとばしても良さそうですが、手術前に気道内腔に何もないことを確認することは一定の意義はあります。しかし末梢性(心臓から離れた肺の外側)の肺癌の場合は普通何もないことが多いです。また、気管支鏡検査はちゃんと鎮静剤を入れないとかなりつらい検査です。咳は出るし息苦しい。だから、どうせ手術が必要であるなら経気管支肺生検目的の長時間のこの検査は個人的には避けても良いように思います。

 

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