手術の診療報酬

前回は診療報酬の話をしましたが、それでは手術はどうでしょうか?

手術も細かく点数がついています。開胸手術は胸腔鏡手術より点数が低いです。また、気管支分岐部切除や再建手術、移植などは高い点数になっています。肺の手術では今はステプラー(stapler)というという自動縫合器というデバイスを用います。ステプラーとはホッチキスのことですが、細かな多数のホッチキスが臓器にかかり、内蔵しているカッターナイフで切るという装置です。これで肺組織や気管支や血管を処理します。なくてはならない機器なわけですが、これがなんと手術の種類によって保険で支払われる本数が決まっています。それ以上使用するとまたまた病院の持ち出しというか診療報酬から減額されます。規定数が6本なら7本以上使うと損していきます。だから診療報酬を少なくとも重要視してる医師は6本以内で何とかしようとします。しかし、どうしても使わねばならないときも出てきます。そこは仕方が無いのですが。また、超音波凝固切開装置やベッセルシーリングシステム(vessel sealing system)といった、これまた無くてはならない機器がありますが、これも加算は2000点です。機器の値段より安く設定されていますので、使えば使うほど一定の報酬減額になります。これら機器を使わずに胸腔鏡手術は可能ですが、術後術中合併症は上昇することが予想されます。多分、使わない外科医は極めて少数でしょう。 ここまでぎりぎりだとは何かおかしい感じがしませんか?

 

 

診療報酬について



病院の外来や入院では医師や看護師など医療従事者ははさまざまなことをします。その一つ一つの行為に点数がついています。例えば採血したり、点滴したり、内視鏡検査したり、手術したりです。診察だけでも初診料とか再診料があります。その点数X10が診療報酬(円)になります。例えば100点のことをすれば1000円ですね。 診療報酬とは、医療保険から医療機関に支払われる治療費のことです。これはいろんな制限がつけられていて、項目によっては月に何度も採血ができないとか、CTは1月1回だけだとかリハビリは月何分までとかなどです。過剰な点数で医療費が上がらないようにすることで医療費を抑制し保険財政が破綻するのを予防しているわけです。しかし、少子高齢化で医療費は自然に伸びていきます。医療が高度化すれば高度化するほど医療費は上がります。診療報酬点数を下げると様々なサービスが無くなります。食事の値段を下げたり、平均在院日数を短縮したり(一定期間以上の入院で診療報酬が下がるため)さまざまなことで医療費を下げることがされています。病院の診療報酬が下がる対策としては有料個室や特別室を作って報酬にすることです。この診療報酬の厳格化は最近、本当に厳格化されている雰囲気があります。無駄な医療=報酬の減額なのですが、昔は大学病院や公的病院などではいい加減な感じがありました(税金で補填されるから)が、今はそうではありません。例えば気管狭窄や気管支狭窄に用いるステントなどは硬性鏡を用いるシリコン製のDumonステント以外は赤字です。しかしこれは留置にテクニックが必要です。硬性鏡自体、実際には使ったことのない医師も多いと思います。Ultraflexなどの軟性気管支鏡で入れるステントは手技的には簡単ですが、材料費が手技料より高いので入れれば入れるほど赤字です。こうなると赤字を生み出すために働いていることになります。こういう材料費が手技の範囲を狭めているともいえます。赤字になると医師はただ働きどころか、マイナス報酬を生み出すことになり、病院の持ち出しとなります。患者には有用でも病院はどんどんと赤字になっていく構図です。だから、ギリギリの診療で行っている日本の病院は今回のコロナパンデミックで通常の患者数が減ると赤字にすぐに転落します。