オリジナティのある医療



外科の世界において個人的に私が凄いなと思うのは、やはり全く何もないところから作り上げることやその人です。身近なところで分かりやすいものでは新しい手術手技ということがいえると思います。いわゆるオリジナリティのある医療、オリジナリティのある手術です。本当に何もないところから自分で新しい治療法や手術術式を考えるのは相当困難で凄いことです。私の入局した時点での医局は教授不在でしたが退職されたばかりの岩喬教授は、まさにWPW症候群の外科治療でオリジナリティのある手術を持つ稀有の存在でした。全国のみならず海外からも患者さんが大学病院に集まってきていました。なぜなら、当時その手術を施行しているのは唯一無二であったからです。岩先生は1987年に不整脈外科研究会を発足されました。その会は現在も続いています。研究会発足当時は心室頻拍やWPW症候群などに対する外科治療が主たるテーマでしたが、現在はカテーテルアブレーションを含めた心房細動に対する外科治療が中心となっています。しかし残念ながら、日本の第一人者と呼ばれる外科医のオリジナリティのある仕事は大変少なく(しかし岩先生のように各分野で確実にあります)、今はオリジナリティがあるといわれる新しいとされるほとんどの手技は海外から輸入したものです。海外でやっていたことを日本に輸入して手技を広め、そのうえで日本特有に手技やデバイスを改良するものが多いです。勿論、それですら当然、すごい苦労と努力が必要で尊敬すべきことではあります。“日本ではじめて“ や ”○○地区ではじめて“ や時には ”○○市ではじめて“なんて地域への新手技の導入というものは、グローバルオリジナリティーがあるとは決していえないものですが、これでも、少なくとも今まで自分がやらなかったことをやるわけですので、勇気も準備もいります。基礎医学の分野では、たとえばノーベル賞受賞分野では凄いオリジナリティのある業績が実際の臨床医学に応用されています。いわずと知れた免疫チェックポイント阻害剤などはその一つと言えます。外科分野は現在かなりその手技は成熟してきていて、昔ほどなかなかオリジナリティのあるものが出てこないのは当然です。外科治療として現在行われているある範囲は将来的にそれ以外の科の治療に置き換わっていくのは当然かもしれません。たとえば外科治療の革命の一つは痛みのない、創のつかない治療なのでしょうが、ガンマナイフやノバリスなどで実現可能な過渡期にあるとも言えます。勿論そこにはステージなどのハードルはありますから全てというわけにはいかないでしょう。心臓外科での冠動脈バイパス術のようにステント留置にかなりの適応が移行するなんてことも当然考えられるわけです。また、手術の上手さ。。。これを評価するのは難しいです。では外科手技は何で比較すればいいのか。。よく浸透しているのは病院間での手術数の比較です。毎年3月になると様々な出版社から本が出ます。しかし、A病院は年間ある手術が300例、B病院は100例だからA病院の方が手術が上手い!とはなりません。手術数は地域差での患者数の多い、少ないや病院の規模、勤務している外科医の数などで大きなバイアスがかかります。1チームの病院は3チームの病院より手術が少ないのは当たり前です。だから、この手の本での手技の優劣はわかりません。またどの外科医が手術するかでも手術の結果は左右されるでしょう。しかし、オリジナリティのある手術がその病院でしかできなくて患者が集まるのなら話は別で、一つの指標になる気がします。