ドラマでよく出てくるロボット支援下手術、いわゆるダヴィンチ手術ですが、この手術も呼吸器外科で行えます。ロボットが手術をしてくれるなら楽なのですが、手術するのはあくまでも医師であり、ロボットを利用して医師が手術します。いわゆるロボットに支援してもらって行う支援下手術です。この機器はアメリカで「軍医の分身」として開発されたものです。戦時下の野戦病院はベッドも医療機器も外科医も何もかも足りない。照明も麻酔も消毒も不十分な環境下で、戦場で重傷を負った兵士の命を遠隔手術によって助けることができないかというのが開発目的でした。しかし手術操作と機械とのわずかなタイムラグがあり、軍事医療から民間に転用されました。2000年にFDA(アメリカ食品医薬品局)から承認を受け、日本では2009年に厚生労働省から医療機器として承認されています。日本のダヴィンチの台数は米国に次いで多いらしいです。この機械は前立腺手術のような深く狭くそして範囲が限定された手術にはすごい威力を発揮します。細かな操作が可能で出血が少ないわけです。しかし、現段階の肺癌手術では胸腔鏡手術に比べて何が利点なのかはまだ不明です。孔の数が多い、コストが高い、出血時の危険性が高い、手術前後時間がかかるなど胸腔鏡手術にはない欠点があります。私が思う最もきつい欠点は触覚がないことです。視覚だけで縫合しなければなりません。逆に長所は手振れがない、鉗子の自由度が高い、3D視野が広いことでしょうか。つまり、奥深いリンパ節の郭清や腫瘍切除などに有利です。年を取った外科医にはこの上ない手術環境が得られます。ちょっと手が震えるけどダヴィンチならできる!と言って若手に手術機会を奪うようなことだけはしてはならないと思いますが、結果的には奪ってるんでしょうね。。。外科医は皆年取りますので。。。ただ、ダヴィンチ手術は胸腔鏡手術に比べてお金がかかります。特に手術数が少ない場合は。なのに日本では保険点数は全く同じです。保険がきくので患者側からすれば良いのですが、コストの点からは民間の病院はダヴィンチより胸腔鏡手術してくれと思っているのは当然です。大学病院ですら利潤を追求しないといけない時代ですから。ダヴィンチは私がドイツ留学していた2002年頃、イタリアでかなり流行っていましたが、ドイツでは全くしていませんでした。今でも限定された一部の病院だけのようです。(中国でもそうです。)しかし、その後イタリアでもコストの問題で下火になりました。同じ欧州なのにドイツとイタリアの国民性がよく表れています。