開胸術後疼痛症候群について




胸部の手術、特に肋骨と肋骨との間からおこなう手術では開胸術後疼痛症候群という術後合併症が起こりやすくなります。術後外来で、やはり患者さんが最も多く訴えられるのがこれです。肋骨と肋骨の間には筋肉の他に肋間神経という神経が背中から前(正中)まで走っています。手術でこの肋間神経を圧排したり傷害したりすると傷害した部位から前方の神経が痛んだり、チクチクしたり、たまにビリッとした電気が走ったりします。この症状はだんだんと時間の経過とともに無くなっては行きますが、10年経過してもたまにひょぅこりと起こることもあるようです。昔の創を大きく開ける開胸術では必ず肋間神経が傷害されていました。胸腔鏡手術になってからは30%くらいでしょうか。ただ、あまり重傷の方はおられないです。たまに男性で乳頭部が下着にこすれて、さらに痛いという方がおられます。私は鎮痛剤や軟膏もしくは筋肉痛などに対する湿布を出すことにしており、それでかなり緩和されてはいるようですが、重症であればペインクリニックでの処理も必要になることがあります。処方はアセトアミノフェン、非ステロイド消炎鎮痛剤、三環系抗うつ薬、プレガバリン、オピオイド、リドカイン軟膏、ペインクリニックではステロイドの局注や肋間神経ブロック、神経根ブロックなどが行われます。ただ、これらの治療も一時的であることが多く、強い痛みが持続する様な場合は手術による早期の痛みでは無いと判断します。痛みの原因、つまり炎症が続くと膿瘍ができたり、異常な新生血管ができたりします。こうなると通常の鎮痛剤やブロックでは対処不可能です。経動脈的微細血管塞栓術(TAME)がかなり期待できる治療です。カテーテルを疼痛の原因である炎症部の肋間動脈、すなわち、疼痛部のもやもやし増殖した新生血管に対し、非常に小さな抗生物質粒子であるイミペネム・シラスタチンを用いて異常な血管を塞ぎます。このことで除痛を得る低侵襲な治療法です。